水素の凝縮・液化

水素の凝縮熱伝達率がNusselt理論式に一致することを初めて実証

技術情報1

 燃料電池の燃料を液体水素の形態で輸送・貯蔵する場合、輸送時や消費地に設置された液体水素貯槽から発生する蒸発ガスの再液化(上図の小型冷凍機による蒸発水素ガスの再液化)が経済性の面から重要となる。また、凝縮・液化時の熱伝達率を精度良く推定できることは熱交換器(凝縮器)の設計上重要となるばかりでなく、液化に要する所要動力も低減できる。

 ここでは、”磁気冷凍法による高効率水素液化技術の開発”に際し、必要となった水素の凝縮・液化技術(上図の磁気冷凍法による水素の凝縮・液化)について述べる。物質・材料研究機構(NIMS)/金沢大学の磁気冷凍水素液化の捏造を検証は「世界初の磁気冷凍法による水素液化」のページを参照)

 鉛直管内もしくは管外で流体が膜状凝縮する際の熱伝達特性に関する研究は、上図に示す Nusseltの鉛直平板上での層流膜状凝縮理論に始まる。極低温流体の研究は少なく、液膜が層流の場合について数例実施されているのみである。酸素、窒素など比較的沸点の高い極低温流体については、凝縮・液化時の熱伝達率が Nusselt層流理論式と良く一致することが確認されている。これに対し、下図に示す水素、ヘリウムのように、沸点の低い水素、重水素、ヘリウムについては Nusselt理論式と一致しない実験結果が従来得られていた。

 特に、凝縮器の設計に重要となる凝縮ガスと伝熱面の温度差 ΔT(過冷度)が小さくなると(ΔT < 2 K)、下図に示すように、Drayer、Ewald、Sato & Ogataの実験結果は理論式との差が大きくなる傾向を示し、実験から得られた凝縮熱伝達率 h と Nusselt理論式との関係は長い間、明確にされていなかった。その原因として、極低温下での実験方法、実験装置、実験精度の問題があげられる。

 超伝導マグネットを使用した医療用MRI装置には、蒸発したヘリウムガスを小型冷凍機で凝縮・液化する方式(上図の小型冷凍機による蒸発ガスの再液化)が一部既に採用されているが、温度差 ΔT が小さい場合の熱伝達率は定量的に明確にされず使用されていた。

 液体水素容器内で蒸発する水素ガスが凝縮・液化する際の凝縮熱伝達率 (h)下図に示すG-M型小型冷凍機(三菱重工製 UCR31W)を使用した凝縮・液化実験装置で測定した。本実験装置は上図に示す貯槽から蒸発する水素ガスの再液化をシミュレートしている。得られた実験結果を Drayer らの水素の実験結果と共に下図に示す。
 水素の熱伝達率は Nusselt層流理論式と ±20% 程度で一致することを初めて実証した [8-10]。

 水素の凝縮・液化実験を実施する前に、実験装置の精度確認も含めて窒素の凝縮・液化実験を実施した。窒素の実験データから得られた凝縮数 Nu*と膜レイノルズ数 Re*の関係を、従来報告されている Haseldenらの窒素、酸素の実験データと共に下図に示す。得られた窒素の熱伝達率は Nusselt理論式と ±20% 程度で一致することを確認した。また、図にはNusselt理論式から導かれる凝縮数と膜レイノルズ数の関係式を比較のために実線で示している。
 水素の実験データから得られた凝縮数 Nu*と膜レイノルズ数 Re* の関係を、従来報告されている水素、ヘリウムの実験データと共に下図に示す。水素の熱伝達率は、前述のように Nusselt理論式と ±20% 程度で良く一致する。

 本実験で得られた結果は、 重水素、ヘリウムの場合でも凝縮液膜が層流の場合、凝縮熱伝達率は Nusselt理論式から予測できることを示唆しており、工学上非常に有用である。例えば、液体水素貯槽で侵入熱により蒸発する水素ガス(ボイルオフガス)や医療用MRI装置の液体ヘリウム貯槽で蒸発するヘリウムガスを高効率で再液化できる。